星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

大樹 (連載7)

【前回までのお話】
http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=search&word=%81i%98A%8D%DA

切り倒された木は、小さく切り刻まれ、元の大きさからは信じられないくらい手頃な薪になりました。それは町へ運ばれて、それぞれの家の暖炉で燃やされることになりました。
 冬のある日、町のそれぞれの家では、暖炉に火が点されました。火は勢いよく燃え上がり、くべられた薪だけでなく、家々までをも呑み込み、狂ったように踊りまくりました。火は、いつか町全体を包み込んで、ゴウゴウと叫んでいました。それは、木が切り倒されたときの叫びにも似ていました。

 今、木は、自分の体が昔よりずっと軽くなったのを感じていました。根が大地に張り付いて動くことが出来なかった昔と違って、今は自由に空を駆けることができたのです。
−−今なら、きっとすぐにだって、太陽の傍まで行くことができるに違いない。
 彼は、そう思いました。そして、太陽に向かってどんどん飛んでいきました。
 飛んで・・・飛んで・・・飛び続けて、(疲れを感じることはありませんでしたが)彼は悲しくなりました。
 −−太陽は、まだあんなに遠い・・・。

 地上から見る空は暗く、雨が降っていました。
「冷たい。何だか・・・誰かが泣いているみたいだ」
「雨だよ。もう冬も終わりだ。雪解けの雨だよ」
「・・・そうだね」

 山ではまた、新たな種子が飛んできて、大地に根を張りました。そして、春の雨に打たれながら、ゆっくりと枝を伸ばしはじめました。【終わり】

#とんでもないことに、本当にここで終わってしまうのだ。自分でも改めて読み直してみて、本当に救いがないのであきれてしまった。まあ、高校生の時書いたものだから今更どうこうも言えないのだが。
あまりにも暗いので、未発表のまま、封印した方がよかったかも知れないなあとちょっと後悔中。せっかくだからラストだけ書き直してみようかとも思っている。書いてみて、いろいろネタが浮かんだので・・・。まあ、近いうちに。

#見る人が見るとバレバレだと思うけど、この作品の元ネタは井上靖の「あすなろ物語」(「あすは檜になろう、あすは檜になろうと思いながら、なれないでいる木だからあすなろうの木というのよ」という一節がある)とアンデルセン童話の「もみの木」である。ラストの家が燃える様子は、小川未明が入っているし、太陽に向かって空を飛ぶイメージは宮沢賢治かも知れない。まあ、高校時代、その手の作品が大好きだったと言うことで・・・。