【前回までのお話】
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また別の魚の群れが泳いできました。そして、彼らも船とは反対の方に泳いでいこうとします。船は、慌てて尋ねてみました。
「どうして、君達はそっちへ向かって泳ぐの? 僕と同じように流れに身を任せてごらんよ。その方がずっと楽だろう?」
魚たちはみな、流れに逆らう形で泳いでいたのです。
「どうしてって・・・」
「あなたと同じ方向へ・・・」
「泳いだら・・・」
「流されてしまうでは・・・」
「ありませんか・・・」
最後の言葉を言ったのは、群れの一番最後の魚でした。
「ああ・・・そうか・・・そうだね」
船がそう言ったときには、魚の群れはもうずっと遠くの方に離れていました。
船は仕方なく、また一人で旅をすることにしました。
船は川の流れに乗って旅しながら、その後も何匹もの魚たちに出会いました。けれども、どの群れにも彼と同じ方向へ泳いでくれる者はいなかったので、あいかわらず一人でした。
「やあ、君! きみは何処から来たんだい?」
ふいに彼を呼ぶ声が聞こえました。船は、あわてて辺りを見回しました。
川辺に近い岩の上に、一匹のカエルがいて、船の方を見ていました。
「こんにちは。カエルさん」
カエルはピョンと跳んで、水の中に飛び込むと、船と並行に泳ぎ出しました。そして、泳ぎながら、
「きみは何処から流れてきたんだい? そこはどんな所だった? きれいな所だったかい?」
と、船に向かって話しかけるのでした。
「そうですね・・・」
船は、今はもう遠くなった故郷のことを思い出していました。きれいな所だったろうか? 遠くに見える初夏を迎えたばかりの山々。ふもとには、民家が並ぶ。そんなはるか彼方からずっと、田園風景が続き、一面の緑の中で、人々が農作業をしている。あの風景は、いつも同じだった。いつもいつも、風に吹かれてじっとしたまま、僕は同じ景色を繰り返し見ていた。
「・・・でも、今はもう、あの頃とは違う。僕にはもう、動きを妨げる根はないんだから」
船は嬉しそうに言いました。
「僕は今、いろんな景色を見れる。自由に動ける。僕は自由なんだ」
カエルはそれを聞くと、変な顔をしました。
「そりゃ、おかしいよ」
と、一言、言いました。
「君が自由だって・・・?」
カエルは、船を先端から後端までジロジロ見てから続けました。【続く】