【前回までのお話】
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「光はいつになったら訪れる?」
彼は、時々思い出したように老人に尋ねた。老人の答はいつも同じだった。
「まだだ・・・まだずっと先だ・・・」
彼は、そのたびにため息をつき、うなだれた。過去の記憶・・・光の中の自分の幻影が、彼の中を駆けていた。それはもう、本当に微かなイメージでしかなくなっていたが・・・。
「!」
不意に彼は立ち上がった。老人は驚いて、彼の方を見た。
「どうした?」
彼はそれには応えず、じっと闇の奥を見つめている。
「何か・・・見えた」
彼が呟いた。老人がその言葉の意味を理解するには、しばしの時が必要だったろう。闇の時代はまだ続いている。
「ばかな・・・。まだ光が訪れるには、早すぎる」
老人の言葉も、彼の耳には届かぬようだった。彼は立ちすくんだまま、まだ闇の奥を見つめている。沈黙が、闇の中で痛いほどだった。
「気をつけた方がいい」
やがて、老人が口を開いた。
「闇の時代はあまりにも長い。お前さんが生まれて、丁度今くらいに成長するまでと同じ時間なのだから。しかも、闇の中では我々は動けん。動かない時間は、余計に長く感じられるものだ」
彼は応えない。
「長い闇の中では、時として幻が我々を苦しめる」
老人は続けた。
「幻覚だ。妖かしの光。それを見、それに惑わされた仲間が、これまでにも何人も何人も死んでいった。焦らないことだ。光の時代はまだずっと先なのだ・・・」
「あんたは、いつもそればかりだ!」
彼は口を開いた。
「光はまだ来ない。待つよりない。・・・俺は、あんたの言葉を信じてきた。だからこそ、ここにいて、ここで待った。ずっと・・・。長い時間だった。だが、光は来ない。待っても、光は来ないじゃないか!」
彼は叫んだ。
「あんたの言っていることが正しいかどうか、どうしてわかる!? みんなでたらめで、あんたは俺をここに縛り付けたんだ! そうだ。さっき見えたあの光、あの光の中にはみんながいて、俺一人だけがこんな闇の中で・・・」
その時、突然、闇に変化が生じた。今度は、老人もはっきりとそれを見た。
「光だ!」
彼が長い間、探し求めていたもの・・・。その光は、前方遙か彼方の闇の中で、まだ小さく、幼かったが、しかし、ゆっくりと輝きを増しつつあった。
「光の時代が来たんだ!」【続く】