星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」  村上春樹

読書17.「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」  村上春樹 文春文庫

ぎりぎりのところでファンタジーに逃げていない村上作品。珍しい。のかな? しかし、謎から謎へ、物語を引っ張るうまさはさすがで、続きが気になって、一気に読み進めることができた。

なぜ、主人公は、20歳のころ、死ぬことばかり考えていたのか? という冒頭から始まって、高校時代の友達は、なぜ、彼をグループから切り離したのか? 真相を明らかにするために、帰郷した名古屋で、彼らが話す真実とは何か?

ちゃんと答えが明示されている場面もあれば、あいまいなまま、通り過ぎていく謎もある。それも含めて、読みごたえがあって、面白かった。

高校時代を共に過ごした5人の少年少女が、16年の時を経て、どんな形でそれぞれの人生を送ったのか。描かれている彼らの人生一人一人に説得力があるのがさすがだし、その時の友情の記憶を、それぞれが30代も半ばすぎてから、振り返る気持ちには、共感できる部分も多々あって、切ない。その時の痛みを乗り越えないと、先に進めないという部分もよかったと思います。