星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「クラリオンの子供たち」 堤抄子

■「クラリオンの子供たち」 堤抄子 ふゅーじょんぷろだくと

実家から持ってきた段ボール箱から見つけたので、久しぶりに読み直してみた。
初版の発行が1993年。しかも収録されている作品はさらに古く1987年から1990年にかけて発表されたSF短編である。

ただ、一方ではっきり言えるのは、この作品が古くならない理由。どんなに時を経ようと人間の心の闇は変わらないという事実。この作者が描いている闇の深さだけは現代でも全く状況が変わっていないこと。

「これが正義か? じゃあ悪ってのは何なんだ!?」と叫ぶ少年の問いかけは、今の世でも十分に通じるだろう。

「大人になるっていうのはな、世の中の矛盾を認めちまうってことさ。悪と妥協しちまうってことだよ」(by「テクニカラードリームマシン」)

「いつだってそうでしたよ。地球だって自然だって、ずいぶん人間たちに寛大でしたよ」(by「ザ・デイ・アフターケア」

「ご自分の立場をおわかりですか?」と、問いかけるコンピューターの声は、そのまま読者への痛烈な問いかけとなる。それぞれのキャラクターが当たり前のように生活している日常に対して、作者が問いかける残酷なメッセージ。救いのない物語の展開。

「決めた以上は突っ走るしかない」「無理だなんて言っていらんない」
「あんたはイメージで現実をぶっ壊す力があるんだから、観客の日常をぶっ飛ばしてやんな!」(by「ラプンツェル異聞」)
グリム童話の「ラプンツェル」に対し、「これを私たちの物語にしたいの。私たちはいずれ、荒野へ出て行くのだから」高校生の少女が、そうやって前向きに力強く叫んでいる。そのメッセージの示す意味は明確だ。

「人間に生まれ変わりたい? くだらないわ。あなたみたいな人間なんて一人もいないわ。みんな、わがままで、卑劣で・・」こういうセリフをキャラクターに言わせてしまう作家もよほどにも思えるが、それでも。

「それでも僕は人間が好きですよ」(by「迷える電気羊のために」)
撃たれて、破壊されるアンドロイドの青年にそういうセリフを言わせてしまうこの作家のセンスがまたすごく好きなのだ。

現在絶版になっている短編集なので、早々は入手不可能だと思うけれども、古本屋で見かけたらぜひ手に取ってみてください。