星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

大樹 (連載4)

【前回までのお話】
http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=search&word=%81i%98A%8D%DA

 秋のある日、一匹のリスがやってきて、彼の枝に住みつくようになりました。リスは毎朝枝の上に出てくると、言ったものでした。
「あああ、ここは見晴らしがよくて気持ちがいいな。食べ物もたくさんあるし、こんないい所は他にはないよ」
 リスは毎日こまめに働き、木の実等の食物を集め、巣の中に蓄えました。秋はまだ浅く、木々もまだ緑の葉をヒラヒラさせていましたが、冬はいつもすぐやってくるのでした。

 ある朝、リスがいつものように枝の上へ出て遠くの空を見ていると、その年、一番最初の渡り鳥の一団が目につきました。渡り鳥たちは長い列をなし、北の空から飛んできて、南の空へ向かって真っ直ぐに飛んでいきました。それは、いつも秋になると見られる光景で、珍しくも何ともない光景ではありました。
 渡り鳥たちは、翌日も、そしてその翌日も、北の空から飛んできては、南へ南へと渡っていきました。
−−あの鳥たちは、一体何処から来て何処へ行くのだろう? 何故、あんなに急いで飛ぶのだろう?
 ふと、リスはそう思いました。そして、すぐまた考えました。
−−そんなことが、この僕になんの関係がある? どうでもいいじゃないか、誰が何処へ行こうと・・・。
 それでも、その翌日には又、渡り鳥の群れは飛んできて、南へと飛び去っていきます。そして、リスは又、その光景に引き寄せられてしまうのでした。
「一体、何処へ行くんだろう? あの空の向こうには、何があるのだろう?」
 リスは、どうしてもそう思わずにはいられませんでした。

 リスは、自分の作った立派な住まいを見ました。そして、その中に蓄えてあるたくさんの木の実を見ました。冬を迎える準備は、もうすでに整っていたのです。
 木々はそろそろ赤や黄の衣をまといはじめ、時折吹く風も、少しずつ涼しげになってきました。
「おおい!」
 リスは、木の上から大声で呼びかけました。
「きみたちは一体、何処へ行くんだい!?」
 行くんだい・・・行くんだい・・・行くんだい・・・山びこが、リスの言葉を繰り返しました。けれども、渡り鳥たちは何も応えてはくれませんでした。彼らはただ、南へ南へと・・・忙しく翼を動かすだけだったのです。
−−一体、何に惹かれるんだろう? 何が彼らを、あの空の彼方へ呼び寄せるんだ? 【続く】