星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

大樹 (最終話)・・・書き直してみました。

【前回までのお話】
http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=search&word=%81i%98A%8D%DA

 今、木は自分の体が昔よりずっと軽くなったのを感じていました。根が大地に張り付いて動くことが出来なかった昔と違って、今は自由に空を駆けることができたのです。
−−今なら、きっとすぐにだって太陽の傍まで行くことができるに違いない。
 飛んで・・・飛んで・・・飛び続けて、彼は悲しくなりました。太陽はまだあんなに遠い・・・。

 どうしてもその高みには届かない。木は、泣きながら空を駆けめぐりましたが、そうしているうちに、自分がいつか風となって飛んでいることに気づいたのでした。

 いつかある森の中で、木の上の巣から落ちかかっているヒナ鳥を助けようとしたことがありました。ほんのしばらくの間、ヒナも風に受け止められて空を飛ぶことができたのに、結局力尽きて落ちてしまいました。そんな光景を見ながら風はため息をついたのだけど、やがてかつてのあのヒナ鳥の兄弟が巣立つ時を見守ることができました。

「さあ、行こう! 新しい空へ!」
 立派に成長して若鳥になった兄弟たちは、次々と大樹から飛び立っていきます。風はその背中をそっと押してやりました。追い風を受けて、兄弟たちは次々と空へ向かって羽ばたいていきます。そうして、初めて風は自分のやるべきこと、やってきたことを知ったのでした。

 大樹のはぐくんだヒナ鳥達、彼が守り抜いた鳥たちが、次々と成長して飛び立っていく。風となった今、自分は彼らを運ぶことができる!

 渡り鳥が北から南へ、西から東へと飛んでいくときも、彼らの背中をそっと押して、飛んでいく手伝いをしてやりました。鳥たち自身は、そうやって風に守られていることなど、まるで気づきもしなかったでしょうけど・・・。

「連れていって・・・」「連れていってください・・・」
 やがて、風に向かってささやいてくる小さな声たちも聞こえるようになりました。
 それは種子を飛ばそうとしている植物たちでした。「子どもたちに新しい世界を見せてあげたいんです。種を連れていってください」

 風に、断る理由はありませんでした。風は彼らを優しく受け入れて、遠く日当たりの良さそうな山の斜面へと運んでいきました。

 そして、新たな種子は大地に根を張りました。そして、春の風を受けながら、ゆっくりと枝を伸ばしはじめました。【終わり】