星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「図書室の海」 恩田陸

小説・一般12.「図書室の海」 恩田陸 新潮文庫

別々に独立した短編を集めた短編集だったので、確かに解説の人が書いている通り、映画の予告編集という印象に近い。

特に「ピクニックの準備」は、本当に予告編だった。こんなところで終わってもらっても、続きはどうなるんだ?? という欲求不満が残る。続きは「夜のピクニック」でどうぞ・・・と言われて、放り出されている形だ。

「図書室の海」も、「六番目の小夜子」を未読の人には辛いかも知れない。「鍵」や「サヨコ伝説」の意味がほとんど説明されていないので、知らない人にはついていけないんじゃないかと思う。

「睡蓮」も「麦の底に沈む果実」につながる話なんだそうで、未読の私にはラストが辛い。水底に沈んでいる少女というイメージ自体は非常にきれいなんだけどね。

「イサオ・オサリヴァンを捜して」も大長編SFの予告だという話だから、独立した短編という風にはあんまり見えない。

「茶色の小瓶」「国境の南」はかなりダークな落ちで後味が悪いかも。特に「国境の南」は、ネタとしてかなり危険な内容。「みんな、死んじゃえばいいのよ」という毒に、惹かれる部分があるのは確かだけどね。

一方で、好きな短編は「春よ、こい」と「オデュッセイア」。これはきれいに短編としてまとまっていた。

惜しいのは「ノスタルジア」。収拾がつかなくなったので、無理矢理終わらせて、ごまかしたようにも見える。もうちょいきちんとした落ちがあるかな? と思ったんだけど・・・。

「ある映画の記憶」はタイトル通りの内容。「青幻記」という映画、小説の為のCMみたいで、この作品だけで読むにはミステリーとしての落ちが弱いかも。

ただ、何のかんの言って恩田陸の文章は、そのイメージの美しさと読んでいて気持ちのいいリズム感が魅力的で、多少なり独立した物語として破綻していても、一気に読ませてしまう魔力的な破壊力がある。実際、貶しているようだけど、実はこれが面白かったのは確か。

恩田陸を初読の人にはあまり奨めないけど、既成のファンにはなんの問題もなく楽しめる短編集だと思う。特に今までの長編をある程度読みこなしていれば、むしろファンサービスのような内容だろう。

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