星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

笹の船 (連載3)

【前回までのお話】
http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=search&word=%8D%F9%82%CC%91D

「でも、同時にすごく嬉しかったなあ、あの時は」
 枝は遠くを見るような様子で続けました。
「あの時、親や仲間の木々たちが、心配そうに私を見ていた。でも、私はやっと自由になれたような気がしたんだ」
 船は枝の話を聞きながら、自分が船になる前のことを思い出していました。風に吹かれて、ゆうらりゆうらり揺られながら、同じ景色を繰り返し繰り返し、見ていた日々。
 でも、今は違う。

「私は、やがて子供たちの手から放り出され、小川に落ちて、それから今の生活をしているんだが・・・」
 前方に、大きな岩があるのが見えました。川岸付近を漂っていた枝と船は、それにぶつかって止まりました。
「近ごろ思うんだよ。私は今、本当に自由なのかってね」
 岩にぶつかった勢いで、船は少しだけ枝から離れました。
「どうしてですか?」
 水の流れが、少しずつ船を枝から引き離していました。
「だって、そうだろう? 私たちは結局・・・」
 水音が喧しいくらいに響き渡っていました。枝は岩に引っ掛かったまま止まり、船は流れに乗っていました。枝の言葉は途中までしか聞くことが出来ず、船だけはどんどん流れていきました。