小説・一般10.「カラマーゾフの兄弟」第2巻 ドストエフスキー 光文社古典新訳文庫
「明日モスクワへですって? でも・・・でも、それって、なんてタイミングがいいんでしょう!」カテリーナは一瞬のうちに声をがらりと変えて叫んだ。見る間に涙を追い払い、泣いた形跡などすっかり消えていた。
まさにこの一瞬、彼女のうちにアリョーシャも驚くべき変化が起こったのだった。
「いえ、タイミングがいいって、何もあなたとお別れすることを言っているんじゃないんです。まさかそんなことじゃありません」愛らしい社交的な笑みを浮かべて、彼女は言い訳を始めた。
正確に書くと長くなるので、はしょったけれど、いつも自分こそは正しい優しい娘であると見せている(自分でそう思っている)カテリーナのこういう豹変ぶりを、悪意を持って書いているドストエフスキーが好きだな。「結局、自分のことしか考えていないだろう、お前」というのを見せつけている感じで。
あとこのカテリーナから送られたお金を、持ってきたアリョーシャに対して、一度は喜んでおきながら、地べたにたたきつけて踏みにじった二等大尉の話とか面白かった。
ほかにもいろいろあるけど、そういうキャラクター心理を丁寧に描いているところが面白いと思いました。登場人物の一人一人にドラマがあるようで。