小説・一般37.「みえない雲」 グードルン・パウゼヴァング 小学館文庫
チェルノブイリ原発事故直後の1987年に発表されたドイツのベストセラー小説。ドイツで原発事故が起こったという想定で書かれたフィクションですけど、事故によってパニックを起こす人々の波、それによって死んでいく人々。放射能汚染された人々を助けたくない、近寄らないでとドアを閉めてしまう人たち、差別問題。事故をなかったかのようにしたり顔で政治を語る人たち、被災した人たち同士の連帯など、なかなか生々しいテーマで描いてあって、読み応えがあります。
被爆者とそうでない人を、髪の毛のあるなしで書き分けるのは、ちょっとどうかと思う部分もあるんですけど、それでも、自分は被爆者であることを隠したくないと、あえて髪のない頭を隠そうとせずに過ごす主人公の強さには感銘を受けます。
ラストシーンの祖父母との対立は、原発を擁護し続けた、危険性に目をつむって、知らぬふり、見ないようにして日々を過ごしてきた老人たちに対する子供からの告発にみえました。
この期に及んで、何も見ない、見ようとしない、嫌なことは聞きたくないと、現実逃避ばかりをしたがる老人たちに対する怒りは、少女が体験した悲惨な出来事を追従してきた読者として、非常に許せないものがあります。
いい作品でした。興味のある人は、是非、読んでみてください。ちなみに、ドイツが脱原発の方針を固めたのは、今に始まったことじゃなくて、1986年以降、ドイツでは新しい原発が一基も作られていないそうです。それを聞いただけでも、ドイツっていい国だなあ、と思いましたよ。
- 作者: グードルンパウゼヴァング,Gudrun Pausewang,高田ゆみ子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/11
- メディア: 文庫
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