読書13.「東亰異聞」 小野不由美 新潮社
20年ぶりに再読。
昔、読んだときには、「これって、ミステリーのふりをしながら、ファンタジーだったじゃないか! こんなの反則だよ」と憤った記憶があり、「文章がきれいなだけの雰囲気小説」として、小野不由美作品の中でも評価が低かったんですが・・・。
改めて読み直したら、この作品って、最初から全開でファンタジーだった。なまじっか、中途半端にリアルに見えるものだから、なんでラストでいきなり嘘になっちゃうのかと昔は思ったんだけど、作中で登場人物に言わせているんだ。
「世の中には本当のことと嘘のことがございます。どちらとも知れず、曖昧だから面白いのでございます」
「嘘を規制すれば、誰もが本当の顔で嘘をつく。嘘が本当としてまかり通ってしまうことと、ふたつが曖昧なこととは同じようでまるで違う気がいたしますんです」
リアルとファンタジーが交じり合った世界を、作者はそのために用意して、歴史上の人物の名前をあえて入れてみたり、明治の歴史を作中で丁寧に語ったりしているんだと思う。
世の中を白と黒に分け、光と影を分断して、できあがった世界は、どこかしら無理が出て、たわんでいくもの。御維新によって、それまで呪力で守られていた世界の均衡が崩れた。
海から異界が戻ってきて、都を浸食していくラストシーンは、どこか津波を連想させて、予言書のようにも見える。
きれいなイメージの物語でした。怪しく怖く美しい。これを読んだおかげで、明治という時代に興味が出てきました。また、歴史関係の本を読んでいきたいなあ。と何となく思い始めたけど、予定は未定だから、さて。
- 作者: 小野不由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/04
- メディア: 単行本
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