星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

大樹 (連載6)

【前回までのお話】
http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=search&word=%81i%98A%8D%DA

「ねえ、父さん?」
 少年は父親を見上げました。
「何だ?」
 二人は小鳥のさえずりを聞きながら、山道を歩いていました。父親は木々を切り倒して、それを売り、金に替えて暮らしていたのです。そして、少年は父親の手伝いをしていました。もちろん、少年の腕は父親に比べてまだ細く弱く、手伝いといってもたいしたことは出来ませんでしたが。
「山の木々は、切られる時、怖くないのかな?」
「木は動物じゃない。感情なんか持ってやしないよ」
 父親は先に立って歩きながら、そう答えました。
「怖いとも、恐ろしいとも、嬉しいとも、悲しいとも感じないさ」
「・・・そう・・・かな?」
 少年は、自分の背の何倍もの高さにそびえたつ木々を見上げました。枝の一本一本の隙間から、太陽の光が微かにこぼれています。すっと軽く、風が枝枝の間を通り抜け、枝は風に吹かれて揺れました。それはまるで、怖がって震えているようでもありました。

 父親の仕事する様を、少年は傍らに座ってじっと見つめていました。斧が振り下ろされるたびに、木は震え、ミシミシと音をたてました。
 まるで、何か叫んでいるみたいだ−−と、少年は思いました。
−−僕は、長い間生きてきた・・・。
 哀しい声が、少年の耳に届きました。
−−この山で、この場所で、ずっとあの太陽を見つめていた・・・。
 少年は辺りを見回しました。
−−いつか成長したら、あの太陽のところまで行けると・・・そう、思っていた。
 少年の近くには、木を切り続けている父親しかいませんでした。
−−それなのに、今、こんな風に殺されなきゃならないなんて!
 少年は目の前でミシミシと音をたてている木を見ました。
−−嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!
 木は今にも倒れそうなくらい、大きく傾いていました。
−−もしかして、明日には届いたかも知れないのに・・・。
 父親は、最後にもう一度だけ、斧を振り下ろそうとしていました。
「やめて! 父さん!」
 父親が斧を振り下ろすと同時に、木は大きな音をたてて倒れました。
 父親は、少年の方を振り返りました。
「どうした? どうかしたのか?」
 少年は、倒れた木をじっと見つめました。もう声は聞こえませんでした。
「ううん。何でもないよ」
 少年は父親の方を振り返り、そう答えました。
・・・まさかね・・・。【続く】