星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「闇、そして光」(連載1)

#20歳頃の作品ですが、せっかくだからここで連載してみます。オリジナル同人誌に掲載済み。

【闇、そして光】

 彼は、暗黒の世界を彷徨っていた。長い間。輝くもののない空と、暗くひずんだ大地との狭間で、彼は戸惑っていた。前も見えず、後方を振り返っても何もない。ただ広がる闇。
「一体いつから・・・」
 この世界は変わってしまったのだろう? 彼は記憶をたどり、過去へと遡っていく。そうだ、かつての大地は光に満ちていた。空には眩しいばかりの太陽がさんさんと輝き、彼も、そして仲間たちも、自由に空間を駆けめぐり、空に向かって羽ばたいていた。
「なのに・・・」
 今は闇しかない。みんな何処へ消えてしまったのだろう? 彼らもまたこの暗黒の中で、互いの姿も見いだせずに彷徨っているのだろうか。いや、もしかすると、彼らはあのまま光の中にいて、自分だけがその世界から放り出されたのではないだろうか。
「だとしたら・・・」
 あの世界に帰らなければ・・・と、彼は思った。焦燥があった。早く、一刻でも早く、この闇から抜け出さなければならない。
 しかし、闇は果てしなく、どこまでも続いていた・・・。

 いつか、彼は駆けだしていた。光が欲しかった。何処でもいい。光さえあれば・・・そこへ行きたい。もう、永遠に光を見ることはできないのではないか? そんな不安があった。もしかしたら、過去の記憶だと思っていたはずの光とは、彼が産み出した幻か夢なのではないだろうか。
「そんなはずはない!」
 彼は、空間に向かって叫んだ。
「確かに、光はある! あるんだ!」
 大声で叫んだつもりの声は掠れていた。走り続けて、疲れていた。彼はその場に倒れ、しばらく起きあがる気力もなく、動けずにいた。やがて、
「そうともお若いの・・・。光は、確かにある」
 声がした。彼のすぐ傍だ。年老いた男の声。だが、姿は見えない。
「誰だ? 誰かそこにいるのか?」
 彼は声のした方へと視線をめぐらせた。やはり・・・、何もない。何も見えない。
「何処だ? 何処にいるんだ?」
 彼は腕をそちらに向けて、闇をかき回した。何かに触れる。暖かな・・・彼と同じ腕の感触。それは、ガサガサとして張りのない、老人の腕であった。
「そら、わかっただろう? 心配することなど何もない」
 老人は彼の腕を引き寄せて、自分の胸に重ねてやった。皺だらけのガサついた肌。だが、そこには確かに心臓の鼓動があった。【続く】