星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「闇、そして光」(連載2)

【前回までのお話】
http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=search&word=%81u%88%C5%81A%82%BB%82%B5%82%C4%8C%F5%81v%81i

「そら、わかっただろう? 心配することなど何もない」
 老人は彼の腕を引き寄せて、自分の胸に重ねてやった。皺だらけのガサついた肌。だが、そこには確かに心臓の鼓動があった。
 彼は手を離した。
「・・・ほっとしたよ」
「落ち着いたかね?」
「ああ」
 彼は妙に気恥ずかしい気持ちになっていた。先刻まで、自分が狂ったように走り回り、かつ叫んでいたことを思い出したのだ。むろん老人の目に、それが見えたはずはない。だが、声は聞こえただろう。
「そう、恥ずかしがることはないさ」
 と、老人が言った。微かに笑いを含んだ声で。
 彼は驚いた。(この老人は闇の中で、俺の表情が見えるのだろうか?)
「どうして・・・」
「何、わしも昔はそうだったのさ。初めて光が消えたときはな・・・」
「初めて光が消えたとき? じゃあ、こんなことは前にもあったのか?」
 老人がゆっくりと頷いたように、彼は感じた。
「そうだ。何度もな・・・。お前さんはまだ若いから知らんのも無理はないが、この世界はある一定の規則を持っているんじゃよ。すなわち、明るい光の時代と暗い闇の時代。この二つが交互にやってくるんじゃよ。周期的にな・・・」
「光の時代と闇の時代?」
「そうだ。子供はたいてい光の時代が始まる頃、この世に産まれてくる。そして、お前さんぐらいの歳になって、初めて闇を知るのさ。最初はみな驚き、みな怯える。当然じゃよ。初めて闇を見るのだからな」
「周期的・・・と言ったな。じゃあ、また光が来るのか? また光の世界に帰れるのか?」
「その通りさ、お若いの。心配せずともよい。光は必ず訪れる」
「本当に・・・?」
 彼は辺りを見回した。暗黒がぬめりつくように、彼を取り囲んでいる。
「・・・信じられないな」
 この闇がいつか消える? こんなに真っ暗なのに・・・。
「わしはもう何度も、この闇の時代を迎え、過ごし、くぐり抜けてきた・・・」
 老人は言った。
「長い・・・長い闇だ・・・絶望の時間だ。誰もが過去の光を想い、懐かしみ、未来の闇に夢を失う。悲しい時間だ」
 その声は、すでに彼に語りかけるものではなく、老人は、独り、続けた。
「絶望した同胞が何人も何人も死んでいった。わしはそれを見てきたのだ」【続く】