星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「闇、そして光」(連載3)

【前回までのお話】
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「長い・・・長い闇だ・・・絶望の時間だ。誰もが過去の光を想い、懐かしみ、未来の闇に夢を失う。悲しい時間だ」
 その声は、すでに彼に語りかけるものではなく、老人は、独り、続けた。
「絶望した同胞が何人も何人も死んでいった。わしはそれを見てきたのだ」
 老人は、彼の腕を取った。
「いいか、光は必ず来るのだ。絶望することはない。諦めることはない。確かに闇の時代は長いが、決して永久のものではないのだ。光は再び現れる・・・」
 彼はその手を振り払った。
「あんたの言っていることはわからない」
 彼は言った。
「俺にわかるのは、今、この瞬間に光がないってことだけだ。そうだ。ここには光がない。闇ばかりだ。教えてくれ。あんたがこの世界のことをなんでも知っているのなら・・・。何処に行けばいい? 何処に行けば光が手に入るんだ!?」
「手に入れることなどできぬ。再び光が巡るのを、待つしかないのだよ」
「光が巡る。それはいつだ? いつになったら、この闇から解放されるんだ!?」
 彼は叫んだ。老人に向かって・・・老人がいるはずの闇に向かって両腕を伸ばした。その腕は老人の肩をつかみ、激しく揺さぶった。
「俺は、この闇から解放されたい! 出たいんだ! ここから! 光が欲しいんだよ・・・頼む・・・教えてくれ・・・どうしたらいいんだ・・・どうすれば・・・」
 腕の力はすぐに緩み、声は震えていた。彼がどんなに光を欲しているか・・・老人には痛いほどよくわかった。しかし・・・
「俺には・・・あんたの顔も見えないんだ・・・」
 どうすることもできなかった。老人は悲しそうに応えた。
「・・・待つしかないのだよ・・・」
 闇の時代は始まったばかり・・・彼はそれを知らなかった。闇はますます濃くなり、彼の不安は増していった。

 時間だけが過ぎていった。それでも闇はあいかわらず、闇のままであった。光のない大地でも生物たちは生き続け、活動をしているらしく、時折、闇の片隅で彼らの声が聞こえてきた。
「光はいつになったら訪れる?」
 彼は、時々思い出したように老人に尋ねた。老人の答はいつも同じだった。
「まだだ・・・まだずっと先だ・・・」
 彼は、そのたびにため息をつき、うなだれた。過去の記憶・・・光の中の自分の幻影が、彼の中を駆けていた。【続く】