星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

「オサムシに伝えて」 手塚るみ子

小説・一般7.「オサムシに伝えて」 手塚るみ子 光文社知恵の森文庫

手塚先生の娘さんが書いた父親との思い出だけれど、正直、金持ちお嬢様のわがまま回顧録にしか見えなくて、読んでいて非常に不愉快な想いをした。少なくとも、手塚先生が娘にはやたら甘いお父さんだったことだけはよくわかる。ふざけんなよ、甘やかしすぎだよ。誰か、この女をマジで殴れよ! と、読みながら、何度も思ったよ。

冒頭から彼女が子供の頃に暮らした手塚家の間取りが詳しく書かれているが、ものすごい豪邸だよ。東京のど真ん中に、これだけの敷地を持って邸宅を建てたのなら、そりゃ、確かに金持ちだわ。半端じゃないわ・・・。

これだけの家を建てて、派手なことをやっていたら、やはり「金持ちが趣味でアニメをやっていたんだ」と陰口をたたく人たちがいても、仕方がないのかも知れない・・・。それでなくても、アニメ業界の人が大変な想いをしているのは、みんな手塚治虫のせいだと言われて、業界の人の訃報を聞くたびに、手塚ファンとしては、肩身の狭い想いをしているんだ。

やっぱ、みんな手塚先生が悪いのか・・・と思って、申し訳ない気分になる。私がそういう気分になるくらいなんだから、本人はもっと辛かったんじゃないかと思うんだよ・・・。

それなのに、その気持ちを知ってか知らずか、当の娘さんが、まるで自慢するかのように、うちはこんな立派な家だったんだよ〜、これだけのものを買ってもらったことがあるんだよ〜、こんなごちそうを食べさせてもらったことがあるんだよ〜などと、書き連ねているのは、ものすごく頭に来る。

まあ、そういう家に生まれてしまったんだから、ほかの家庭の事情なんか、わからないのかも知れないが、それにしたって、あんまりだ。無神経すぎると思う。

一つ感じたのは、彼女は、手塚先生の娘かも知れないが、手塚ファンではなかったんだなあ、ということ。彼女の文章からは、いわゆるオタク臭さが全然なくて、ごくごく普通の一般人女性という感じがする。漫画にもアニメにもそんなに興味がなさそうで、思い出の中にほとんど出てこない。「うちの父って、そんなにすごいの?」と、大人になってからびっくりしている程だから、そんなものかも知れない。

結局、彼女にとっては手塚治虫は、ただの気のいいお父さんでしかないんだなあ。と思った。親子なんてそんなものかな、と言う気もするが、ちょっと寂しい気もした。