星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

笹の船 (連載2)

#連載再開。第1話は<A HREF="http://www2.diary.ne.jp/search.cgi?user=154534&cmd=show&num=2006052431148453381&log=2015520947&word=連載" TARGET=blank>こちら</A>。

 川は少しずつ広く、大きくなっていきます。やがて、別の小さな川と合流しました。二つの川は交わって、流れは小さな渦巻きをたくさん作りました。笹の船も渦に巻き込まれ、二、三度くるくると回転しました。その回転が止まらないうちに、流れに変化が生じました。何か大きなものが流されてきたのです。船は新しい流れに押されて、少し川岸の方へ移動しました。よく見ると、それは途中からポッキリと折れた木の枝でした。船はその枝の一部にひっかかり、枝と一緒に押し流されていきました。

「やあ、これは小さな旅人さん。こんにちは」
「こんにちは」
 急に挨拶をされて、船はびっくりしましたが、挨拶を返すと、枝はにっこりと笑いました。
「きみは何処から流れてきたんだい?」
 枝がそう尋ねました。
「・・・ずっと遠くから」
 船はそう応えました。他に応えようがなかったのです。船は自分がいた場所の地名など知らないのですから。
「あなたは何処から来たんですか?」
 船は、枝の方を見ました。枝は、船よりもずっとずっと長く生き、ずっとずっと長く旅してきたように見えました。船には、枝から聞きたいことがたくさんあったのです。
「・・・私も、ずっと遠くからだよ」
 そう言ってから、枝は少しだけ黙り込みました。ずっと遠くだというその故郷のことを思い出していたのかも知れません。
「・・・そうだなあ」
 やがて、枝は口を開きました。
「私は昔、親の木にしっかりとしがみついていた貧弱な小枝だったんだよ。親の木はね、私をしっかりと捕まえて、いつも離してはくれなかった。なんの危険もなく、安心出来る場所だったのだけれど、私はいつも不満だったのさ。同じ景色ばかり見て過ごす平凡な日々に・・・。
 どちらを向いても同じ仲間の木々ばかり。実際、飽き飽きしていたんだ、あの林には・・・。
 だから、ある日、人間の子供たちがやってきて、私を親から切り離してくれたときは大喜びさ。そりゃあ、痛かったよ。折られたときはね。身体がジンと痺れて、気を失いそうだったよ」
 枝はその時のことを思い出したのか、ひどく痛そうに体を震わせました。
「でも、同時にすごく嬉しかったなあ、あの時は」
 枝は遠くを見るような様子で続けました。【続く】