6.「手塚治虫はどこにいる」 夏目房之介 筑摩書房ちくまライブラリー 評価★★★★
序章の「手塚治虫の死」という項目を読んで、かなり共感したし、あの当時のことを懐かしく思い出してました。私もあのときぼろぼろに泣いたファンの一人なので・・。
それで、どうして手塚マンガが、そういう風に読者に対して「内面的な引きつけを起こすのか?」という話が「手塚の描線の描き方」という観点から書かれていたので、非常に興味深く読ませてもらいました。
途中までは、「ふんふん・・なるほど」と頷きながら読んでいたんだけど、ただ、やはり「ジャングル大帝」の件で違和感があったかな?
夏目さんは「ジャングル大帝」の初期バージョンと後期の書き直されたバージョンについて触れて、初期のすばらしかったバージョンが書き直されて台無しになってしまった・・という言い方をされているので・・。
でも、私が小学生のとき読んで、ものすごく感銘を受けた手塚マンガは、その書き直されたバージョンの全集版「ジャングル大帝」なんだけどなあ。(^^);
実際、本の中でも、70年代以降の手塚マンガに親しんで育った世代には、50年代の手塚マンガはわからない・・と書かれていて、それには頷くしかないのだ。
私も自分が好きな手塚マンガを列挙してあげると、昭和40年代(65年)以降の作品に集中してしまうもので・・。それ以前の手塚マンガだと、唯一、よかったと思えるのが「罪と罰」ぐらいなんだけど・・。
そういう意味で、絵柄の変化を受け入れられるかどうかと言う点には、確かに世代的な格差があると思う。まあ、もちろん個人差はあると思うし、「絵を描く人」ならまた作品を見るときの視点も違うんだろう。
ただ、それだけだと、手塚マンガが「読者の内面的な引きつけを起こす」理由として、描線の問題だけを語るのは、やっぱ無理があるんじゃないかと思ってしまう。少なくとも、私が手塚マンガに惹かれた理由としては説得力が弱い。
これはこれで面白かったし、たぶん、その通りなんだろうと思うんだけど、私が好きな手塚治虫・・を語ろうとすると、もっと別の視点が必要になるんだろうなあ・・とちょっと思いました。