ヒナ鳥達のちょうど真下の草むらのなかに、一匹のヘビがいました。先刻から空腹を感じていたヘビは、その木の周りを忌々しそうにぐるぐると回っていました。ヘビにとってその木は高すぎて、ヒナ鳥達のいる巣まではとても登れないのでした。
まったくいまいましい! とヘビは思いました。
ヒナ鳥達の鳴き声は、よく聞こえてくる。そして、自分はとてもお腹が空いている。それなのに、巣に近づくことすらできないなんて!
ヘビは木の上の巣を見上げ、ため息をつきました。
と、ちょうどその時・・・・。
ヘビの目の前に、彼の望みのものが落ちてきたのです。ヘビは飢えていましたし、あっという間にそれを飲み込んでしまいました。
巣の中からは兄弟たちが、その様子を哀しげに見ていました。
やがて、母鳥が戻ってきました。そして、一羽いないことに気づいたのか、気づかなかったのか、いつもと全く変わらない様子でヒナ鳥達にエサを与えました。
幾日か過ぎて、ヒナ鳥たちはみな立派な若鳥になり、空に向かって飛び立っていきました。
あとには、ヒナ鳥達のいた小さな巣だけが残っていましたが、宿主をなくした巣は、雨に打たれ、風に吹かれているうちに、小さな木の枝からはいつか消えていきました。
木は、ヒナ鳥達のすでにいなくなった枝を見ました。
−−飛べるんだ!
あの小さなヒナ鳥の願いは、そんなにはかないものだったろうか。それを思うと、彼は悲しくなるのでした。
冬が近づいていました。風が冷たく吹き荒び、木は身体をぶるっと震わせました。暗く曇ってきた空の彼方、太陽は、それよりずっとずっと遠いところにあるのでした。
季節は、冬から春へ、春から夏へ、夏から秋へと順番を間違えることなく過ぎていきます。昔はウサギにも跳び越された木でしたが、今ではもう鳥たちでさえ、小さなものは彼を飛び越そうとはしませんでした。仲間たちと肩を並べるくらいにすっかり大きくなって、木は少しがっかりしていました。
小さかった頃は、仲間たちは空よりも高く太陽のすぐ傍にいるように見えたのに、いざ大きくなってみると、仲間たちの誰も太陽の傍にいるものはいないとわかったからでした。
秋のある日、一匹のリスがやってきて、彼の枝に住みつくようになりました。リスは毎朝枝の上に出てくると、言ったものでした。
「あああ、ここは見晴らしがよくて気持ちがいいな。食べ物もたくさんあるし、こんないい所は他にはないよ」【続く】