物語の舞台となっている遅島は、解説によると架空の島らしいが、それにしては、設定の描きこみがすごくて、島の地形や動植物の分布、住人の歴史、風俗、昭和初期の暮らしぶりがあまりに丁寧につづられているので、よくこんな設定を思いつけると思って、感心しました。本当に、こういう島があるのかと思うぐらいで。
それとも、モデルになっている島の一つや二つ、あるのだろうか?
島の歴史に興味を持った主人公が、島を旅してまわるけれど、ある程度、アウトドアの知識が確かでないと、こんな小説、書けないだろうと思う。そこはさすがに梨木さんの小説だなあ。と。
物語の最後は、主人公が年老いた50年後の世界。変わってしまった島の様子が丁寧に描かれ、時がたつというのはそういうことなのかと、今あるものも、みんなそうやって変わっていくのかと、自分の故郷を思い、今いる場所を思う。主人公と一緒に、帯の文句通り、「時」と「喪失」をめぐる旅をしてきたような気分です。いい作品でした。