星の原休憩所

映画、アニメ、読書など、趣味の感想記録です。

テアトルエコー 「朝の時間」

この芝居のテーマを一言で語るなら「進路」でしょうね。

「進路」問題というと、学生の悩みみたいに聞こえるかも知れないけど、実は人間は、30代になろうが40代になろうが、60代、70代になろうが、みんな「自分はこの先、どんな道に進むべきなのか?」で悩んでいるという話です。だからこそ、その話が妙に切実で胸を打ちました。

登場人物のうち誰に一番共感するかというのは、それぞれの観客の立ち位置によっても違うだろうけど、私の場合は、年齢的に一番近い末っ子の次男坊ですね。
国立大学を出て、いい会社に勤めておきながら、上司とケンカして会社を辞めてしまい、現在失業中でハローワークに通っているバツイチの39歳。・・・なんだか、設定を聞くだけで泣ける。(;_;)

それで実家に帰ってみれば、開口一番お父さんやお兄さんに「おまえ、仕事の方はどうなんだ? まだ職安に通っているのか?」と訊かれてしまう。それで「自分のトシを考えろよ、もう40なんだぞ」と追い打ちがくる。言われなくたって、本人が一番わかっていることを・・・。(><);

ネタバレだけど、結論から言ってしまえば、彼はラストで父親と同じタクシー運転手の仕事を始めたことを告白するんですね。やはりこの作品の肝は、その部分かな。親の期待、兄の期待は、堅実なサラリーマンだったかも知れないけど、実は本人は内心で父親と同じ仕事をやりたいと思っていたんだと言うこと。

73歳まで走り続けていたお父さんは、「計算すれば、月まで2往復したことになるんだぞ」と自慢げに語るセリフがある。そう考えれば、月まで2往復というのも悪くない。彼のその後の人生を応援したいと思いました。

面白かったのは、その弟に一番理解があったのが、売れない役者をやっているお姉さんだったという部分かな。

まとめて語れば、そういう話でした。長男とその娘の問題、長女とその若い恋人の問題も面白いんだけど、長くなるのでやめておきます。

おまけだけど、実家に帰った子どもたちが全員、まず最初にやることが「何かない?」と言いながら冷蔵庫を開けることだった、というのは笑えました。そういう鋭い観察力に感心します。
あとお父さんがパソコンでまずやることって、家族の写真をパソコンに取り込むことなんだって話。うちの父親と一緒だから、哀愁を誘うよ。

熊倉一雄さん、丸山裕子さんの演技が特に素晴らしかった。いい作品でした。

http://www.t-echo.co.jp/